広める・伝える活動:有機農業の技術

2020/06/17

「伝えたい有機農業の人と術 vol.1」


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那須公一郎さんの草とりいらずの稲作(ボカシ作り編)
那須公一郎さん(熊本県湯前町) 取材期間:2018年11月〜2019年7月

那須さんは昭和16年生まれ。現時点では79歳。取材時は2年前だったので当時は77歳であり、やや耳が遠いことを除けばまだまだお元気だった。53歳で自衛隊を退職、それ以降ずっと有機での米と野菜づくりを試行錯誤、実験を繰り返してこられたベテランだ。

有機JASの年次調査ではこれまで何回か訪問したことはあったのだが、2年前の調査の際に自家製ボカシの効果などをお聞きした際に「私は水稲栽培では草取りはまったくいたしません。」と言われたのに驚いて、あらためて詳しいお話を伺ったことがきっかけで、その後、那須さんの田んぼに通い始めることとなったのだった。

以前から、ていねいでシステマティックな那須さんのボカシ肥料作りには感心していたが、「草が生えない」という認識はなかったので驚いたということもあったが、「この技術や人を伝えなくてはならない」と実感した一番の理由は、那須さんが小さい声でふと漏らした言葉が強烈に響いたからだ。

「私は時間をかけて最高のボカシを完成させた。雑草の問題を解決し、さらに収量も慣行を凌ぐほど上がり、味も最高だと自負しています。ただ、これが地域の人や社会に評価されることはないし、伝える後継者がいないこともさみしい。」

そんなことをおっしゃった。私は、このような立派で誠実な方が評価されず、さみしいとまで言わしめる現状やこの社会って一体なんなのだろう。という怒りにも似た気持ちが湧き上がり、これまでこういう人を見過ごし、看過してきた自分に腹立たしさを覚えた。そして自分にできることで、このような人の存在や技術を伝えていきたい。と強く感じたことでこの連載を始めることにつながった。

(ドラム缶に密閉して嫌気性発酵させる。)

イラストでは、なぜこのボカシを使用すると除草しなくて済むのか?の説明が不足していると思うので、簡単に補足したい。要するにただ単にこのボカシを散布すれば草が生えないということではなくて、いくつかの複合的要因が合わさって、結果的に雑草が発芽しにくい状況が生まれる。ということだ。その一つが米ヌカ除草法でよく言われるように、米ヌカが土中で分解される際に発するガスが、雑草の発芽を抑制するということ。(化学的な説明は筆者にはできない)
あとはよく発酵させたボカシにより良好な土作りがなされ、その結果として田んぼの上層5センチ〜10センチに発生する柔らかい「トロトロ層」が雑草の種子を埋没させ発芽できない状況を作るということ。その他、有機的で豊穣な土がありとあらゆる生物の循環を作り上げており、微生物からイトミミズ、昆虫、エビ、魚類、カエルまでが共存することで、雑草の種子がエサとして食べられることも考えられる。また深水管理による効果もあるだろうし、ジャンボタニシとの共存による除草効果もみとめられた。このような2重3重の要素が重なることによって、雑草が発芽成長できない環境が形成されると推察される。

(育苗・定植はミノル式のセルトレイ苗で行われる)
出穂前の田んぼも現認したが、上記のように、あらゆる生物と水稲が共存するミクロコスモスが完成しており、ホウネンエビが田んぼで群生していたり、ゲンゴロウ、タガメなどもおり、おそらくドジョウやメダカなども生息しているのでは?と思うくらい、豊かで生物多様性の見本のような田んぼは感動の対象となると思われる。

あと、那須さんの経験的実感として「厩肥の否定」がある。就農直後、言われるがまま牛糞堆肥の大量施肥を行なっていたが、ウンカなどの害虫、いもち病などの病害に悩まされていた。しかしその後、牛糞の施用を減らし、米ヌカぼかしを増やすことに比例して病害虫被害が減少していき、収量も安定していく経験から厩肥の弊害を実感として捉えるようになったという。またアイガモ農法も含め、動物性の糞が土中に入ることで食味も落ちるという意見も持っていることも興味深いものがあるが、そこは食べ比べ、成分実験などを行わない限り、評価は分かれるものだと思う。

「田んぼは神聖な場所です。なので私は田植え以降、稲刈りまで一切田んぼの中には足を踏み入れません。」「私はお米や野菜を作ることはしていません。何をしているかというと、ただ土を良くしているだけです。」などの言葉も、深く印象に残るものだった。

(イラスト・文・撮影・取材 浜地 克徳)

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